とくじろう Tokuyiro
Musician, Videographer
アバクア(Abakuá)
アバクア
アメリカ大陸唯一の男性のみによる秘密結社『アバクア(Abakuá)』の起源は、現在のナイジェリア南東部の海岸地域からカメルーン西部を支配していた『カラバル王国』にまで遡る。
カラバル王国を興したイビビオ族の分派であるエフィク族(Efik)の秘密結社
『エクペ(Ekpe)』にその起源を求めることが出来る。
詳しくは http://en.wikipedia.org/wiki/Ekpe
略歴
キューバにおけるアバクアの起源は1832年、ハバナに住むカラバリの黒人によるアパパ・エフィク(Appapá Efik)というカビルドが自分達の信仰を秘密裏に行い始めたことがその始まりである。
ヨルバ族のサンテリア同様、アバクアもまた、キリスト教やその他の信仰と混じり合いながらその誕生を迎える。
カラバリと呼ばれた人々はスアマ(suama)語、オルガ(oluga)語、ビビィ(bibí)語など、異なる言葉を話す異なる部族の人々であったが、互いに意思疎通はとれていたので、それらの人々の集まりをひとまとめにカラバリやブリカモ(Bríkamos)などと呼んでいた。
しかし中でもとくに通用していた呼称は上記のアパパ・エフィク(Appapá Efik)であった。
アバクアのメンバーの多くはベレン地区(Belén)の資本家の召使いや奴隷で、その集まりは当初『アクアブトン(Acuabutón)』と呼ばれていたが、のちに『ベレニスタ(Los Belenistas)』の名で知られるようになる。
また、アバクアはその起源を異にするアフリカ由来の民族に対しても門戸を開き、同胞愛と相互扶助を目的としていたため、瞬く間に入信者数も増え1840年には40以上ものグループが存在するようになっていた。
キューバにおいてもっとも権威のあるアバクアのグループは、マタンサス(Matanzas)のユムリーナ(Yumurina)という町のカラバリ・ブリカモ(Carabali Bricamo)のカビルドで、ニーニョ・デ・ヘスス(Niño de Jesús)が1862年12月24日に始めたもの。
『ビアバンガ(Biabanga)』という名で知られている。
1863年12月24日、パロ・キンビサ(Palo Kimbisa)の創始者でもあるアンドレス・ペティ(Andres Petit)はワナバコア(Guanabacoa)に白人とムラートによるアバクア組織『バココ・エフォ(Bakokó Efor)』を創設し、黒人以外の人種のアバクアへの入信を許可した。
後にこれは『アバクアの革命』と呼ばれる。
本来ペティは植民地全体に広く暗黙のうちに広がっていた人種隔離主義に抵抗してこの新たな組織を立ち上げたのであったが、旧来のアバクアの黒人たちは、自分達と同じようにアバクアに誓いを立てた白人を『兄弟』と認めることを拒否し、大きな抵抗を生んだ。
そして幾多の対立と闘争を重ね、黒人の会員と白人の会員とはそれぞれ別々の派閥で活動をするということで、ついに1872年両者の間で和解が成立する。
同胞愛と相互扶助をうたったアバクアには、社会から阻害され、人との緊密な関係を求めて入会する誠実な会員もいたが、反面、この組織を捜査から逃れる隠れ蓑に利用し、犯罪グループの温床となっていたのも事実。
そのような状況の中、アバクアは次第に人々の間で悪の代名詞のようにされてしまい、1876年8月27日、勅令によってその集会は完全に禁止された。
その後19世紀末奴隷が解放されると、アバクアの組織内でも徐々にではあるものの民族主義による偏見は姿を消して行き、それまで『黒人の』よりどころであったアバクアは、2005年12月、法務省により正式に認可されるに至り、今日では『キューバ人の』よりどころとなっている。
※ カビルド
奴隷達が集うための集会所または組織で、それぞれ由来の部族ごとに組織されたカビルドが国内に幾つも存在する。
奴隷達はカビルドにおいて踊り、歌うこと、また自分達の信仰を行うことが認められており、結果、アフリカの文化、伝統を継承する重要な役目を担った。
詳しくは http://en.wikipedia.org/wiki/Cabildo_(Cuba)
※ アバクアは『ニャニィゴ』という名でも知られているが、ニャニィゴとは『恐れを知らない勇敢な男』という意味である。
また『アバクア』という言葉は、カラバルの固有名詞『アコンクア(Aconcuá)』が語源ではないかと言われている。
7箇条の掟
1:秘密を守ること
2:必要とあらばエクウェ(Ekue /Ekwé)のために命を捧げること。すなわち、いかなる危険があろうと自身の命を賭してでもエクウェを守ること。
3:司祭を敬い、その他の『プラサ(Plaza)』を敬うこと。
4:良い父であり、良い息子であり、母を敬うこと。
5:エコビオ(Ekobio)(同胞)に対して良い兄弟であれ。そして互いに必要なときはいつでも守り合い、助け合うこと。
6:エコビオの妻を敬うこと。
7:勇敢であること。女々しくならず、また見栄を張らないこと。だれからも殴られっぱなしにならないこと。少なくとも女性からは。
この他にも会費の支払に関する事項、エコビオが侮辱された場合の復讐に関する事項、病気や死者が出た場合の相互扶助と援助に関する事項など細かい規定もある。
以上の掟を守れる者であれば、泥棒でも人殺しでもだれでも入会することが出来たので、会員の中にはパロ・モンテ、サンテリアなど他の宗教を信仰する者も大勢いた。
階級(役職)
アバクアの組織も幾つかの階級に分かれている。
(ン)ディシメ(Ndisime)
組織への入会を志望する者(ndisi=arrebato ,me=ser paciente/つまり入会の儀式に伴う激しい痛みに耐えること、の意)
オボネクエ(Obonekue /Obonekwé)
入会した者
プラサ(Plaza)
階級の中では最終的な位で、原理と規範の保全・遂行を担い、幾つかの役職に分かれる。
代表的なものは以下の通り
・イジャンバ(Iyamba)
アバクア組織においてもっとも重要な役割を担い、エクエの責任者である。また組織の会計を行う。
・イ(ク)スエ(Isue /Iksue)
儀式の進行を司り、その開始を取り仕切る。
・モコンゴ(Mokongo)
エクエの意志を遂行する役
・(エ)ンペゴー(Empegó /Mpegó)
入会の誓いを立てた者
・エクエニョン(Ekueñón)
助手
・モルーア(モルーア・ジャンサ) (Morúa /Morúa Yansa)
コーラス隊のリーダー。エリクンディという端々がマラカスのようになった木製の十字架や、エンクリィカモという神聖な太鼓を手にイーレメを誘導する。
・イクスメクエ/イスネクエ(Iksumekue /Isunekue)
イ(ク)スエの助手で、エクエニョンと役割を分担する。
その他の重要な役職
ンクリカモ /エングリカモ(Nkríkamo /Engríkamo)
イーレメの案内役
モニ・ボンコー(Moní Bonkó)
音楽面のリーダー
モソンゴ(Mosongo)
モコンゴの助手
イーレメ
イレメ(ニャニャ)(Íreme /Ñaña)、いわゆるディアブリート(小悪魔)(Diablito)はアバクアにおいてもっとも代表的なキャラクターである。
死者への礼拝と、祖先への敬意がアバクアの信仰の特徴で、イレメは祖先達の霊の化身として、また、光の精霊として儀式に参加し儀式を監督している。イレメは話すことも見ることも出来ないので、男のみが踊りを通じて意思の疎通が出来るとされている。
イレメにはたくさんの種類があり、それぞれ異なった性質をしている。
アベリスン(Aberisún)
アベリニャン(Aberiñan)
エリバンガンドー(Eribangandó)
エンカニナ(Enkanina)
エンボコ・ベンバ(Enboko Bemba)
エフィメレモ・モコ・イレメ(Efiméremo moko Ireme)
アクアナミナ(Akuanamina)
アナマンウィ(Anamanwí)などはンジョロ(Nlloros)といわれる葬儀において特有のイレメである。
また、イレメは超自然的存在の化身であり、プラサには属さない。
太鼓
アバクアの儀式において太鼓はもっとも使用される楽器で、象徴的な性質のものと実際に叩いて演奏されるものとの2種類に分かれる。
まず儀式の最初に用いられる太鼓はその皮を叩いて音を出すのではなく、ある者を呼び出すためにその表面をこすって独特な音を鳴らす。
太鼓の中でも最も重要な、秘密の太鼓をエクエと呼ぶ。
(エクエとはエフィク族の言葉で豹を意味する)
その音は最高神アバシの化身、タンゼの発した神聖な声を模している。
この太鼓はファンバァ(Fambá)と呼ばれる秘密の部屋に置かれ、その前はカーテンでふさがれ、決してその姿を目にすることは出来ない。
儀式のこの部分をファンバイン(Fambayín)という。
象徴的意味合いの太鼓
(エ)ンペゴーはエクエと同じで太鼓だが、こちらは人前に姿を現す。
(エ)ンペゴーという、太鼓と同じ名の役職の者が扱う。
(エ)ンクリカモは(エ)ンペゴーよりも小さな太鼓で、(エ)ンクリカモという名のプラサの者がダンサーの精霊(いわゆるイレメ、ニャニャ)つまりディアブリート(小悪魔)を呼び込み、またコントロールするのに用いられる。
セセリボー(Seseribó)は木製の杯で、その内側は銀箔で覆われ、外側は皮で覆われている。
アバクアのメンバー間の兄弟愛を堅固にするものがセセリボーに託されている。
もうひとつ、リーダー達が手にしている支配の象徴である杖。
音楽的太鼓
アバクアの音楽はビアンコメコ(Biankomeko)と呼ばれる4本以上の太鼓で演奏される。
太鼓の演奏と共に歌が歌われ、イレメによる踊りを伴う。
2つの異なる演奏があり、エフィク族とエフォ族になぞらえて片方のリズムは一方のリズムよりも速く演奏される。
大きい方から順に
ボンコー・エンチェミジャー(Bonkó Enchemiyá)
オビ・アパー(Obí Apá)
クチィ・ジェネマー(Cuchí Yeremá)
ベンコモ(Benkomo)
ビアンコメコと呼ばれるアバクアの楽団の楽器は、太鼓の他にイトノエ(Itonoes)という木の棒、エコン(Ekón)というカウベル、そしてエリクンディ(Erikundis)と呼ばれるチェケレ(Chekeré)で構成される。
エケニヨ(Ekeniyo)
アバクアの儀式においてエケニヨと呼ばれる文字や線からなる表意文字が描かれる。
エケニヨは黄色や白の石膏で描かれ、3つのカテゴリーに分けられる。
1:ガンド(Gando)
ガンドは地面に描かれ、複雑な儀式の状況を表す。
その上には信仰上の様々なモノが置かれ、司祭によって配置されて行く。
2:アナフォルアナ(Anaforuanas) と呼ばれる図形
アバクアを構成するそれぞれの階級を表す。儀式に用いられるある決まったものの上に描かれる。
3:印 キューバ全土に123あるアバクアの組織ひとつひとつを表し、証明する。
儀式
儀式は深夜遅くに始まり、全5幕から成り立っている。
司祭、魔術師、音楽家、そしてエリバンガンドー、エンコボロー、アバネクエなどを始めとするさまざまなイレメが参加し、儀式はカラバルに由来する様々な言葉の混ざり合った言語を使ってとり行われる。
まず最初に子やぎが生け贄に捧げられて儀式が始まるのであるが、これはシカナが人身御供として捧げられた場面を表している。
子やぎはヒトを扱うように扱われ、やぎの血が準備され、参加者全員がそれを飲むのである。
第4幕では夕食が振る舞われ、やぎの肉もこの時に食べられる。
そうして儀式は最後を迎える。
言葉
現在キューバのスペイン語には多くのカラバリ由来の言葉が外来語として入り込み、日常的に使われている。
Asere= Amigo, socio, "compañero"(連れ、または連れに対する呼びかけ)
Tángana= riña, agresión, altercado.(喧嘩)
ñampear= matar.(殺す)
Ferembeke= rasgo gallardo, gesto valeroso.(精悍な顔つき)
Ecobio= camarada. (連れ)
Sángana= Paciencia. (忍耐)
Chévere= bonito, bien, bueno, gracioso, elegante(ヤバい、みたいな万能な用途で)
Autonomasia=(自治 本来の意味)